SNSで「江戸走り」がバズったきっかけ・理由
「江戸走り」とは、江戸時代の飛脚(ひきゃく)などが用いたとされる古式のランニング走法です。近年、この走り方を研究・再現する大場克則さんがSNS上でユニークな実演動画を投稿し始めたことで注目が集まりました。大場さんの投稿内容は専門的な歴史研究に基づきつつもユーモアを交えた軽妙な語り口で、「研究者でありながら面白い」と評判になり、多くの人に受け入れられました。その結果、InstagramやTikTokのショート動画で総再生回数1億回を超える大反響となり、現在では累計2億7千万回以上も再生される大バズリ現象に発展しています。若者の間では「前屈みで走って速そうなのに疲れにくい」というギャップが面白いと話題になり、SNS上で次々とシェア・拡散されていきました。
こうした盛り上がりにより、SNS上では「江戸走り界隈」と呼ばれるコミュニティ的な現象も生まれました。大場さんの動画を真似てファンやクリエイターがパロディ動画を投稿し始め、「元禄スプリント部」「江戸歩き会」など架空の部活・サークル名を掲げる遊びも登場するなど、研究発のネタがひとつのネット文化へと発展しています。この真面目さと面白さの絶妙なバランスがバズった理由の一つで、歴史×身体という普遍的テーマも相まって多くの人の関心を引きました。さらに2025年にはテレビ番組『めざましテレビ』でも取り上げられ、同番組アナウンサーが直々に「江戸走り」を体験・紹介する特集が組まれるなど、メディアで報道されたこともブームを後押ししています。

「江戸走り」の走法・姿勢と現代の走りとの違い
「江戸走り」は、江戸時代の人々が長距離を少ない疲労で走るために編み出した独特の走法とされています。そのフォームには現代のジョギングやマラソンとは異なる特徴がいくつもあります。
江戸時代の走り方のデモンストレーション。前傾の姿勢で腕をコンパクトに振り、同じ側の手足を同時に繰り出すのが特徴。
- 前傾姿勢: 背中をやや丸めて上体を前に倒し気味に構えるのが江戸走りの基本です。現代のランニングでは上体を起こして走る人も多いですが、江戸走りでは重心を前方に置き、まるで前につんのめるように進みます。これにより自然と脚が前に出て推進力を得ることができます。
- 腕の振り: 腕は大きく振り上げず、肘を軽く曲げてコンパクトに小さく振ります。現代のランナーが行う大きな腕振りや肩のひねりを抑え、肩と腰をあまり連動させない動き方です。これによって肩周りの余計な力が抜け、長時間振り続けても肩が疲れにくいフォームになっています。
- 足運び(ストライド): 膝を高く上げずに、小刻みなピッチで足を運ぶのも特徴です。現代の走りのように大股で後ろに強く蹴り出すことはせず、足の力を抜いてスッと回転させるように動かします。歩幅が小さい代わりに一歩の接地時間が短く、「小さく・軽く・速く刻む」ような足さばきで走るため、地面からの衝撃が小さく体力消耗も抑えられます。
- 足の着地: かかとではなく足の前方(ミッドフット~前足部)で地面を捉えるのが江戸走りです。現代のジョギングでは踵着地する人もいますが、江戸走りでは常に爪先寄りで着地し、足音を立てずに静かに走ります。忍者の「抜き足差し足」のように着地衝撃を和らげて静音に走ることで、膝や足への負担を減らし素早い方向転換も可能になります。
- 重心と体の使い方: 常に重心を前に置き、倒れ込むようなイメージで走るため、体幹をうまく使って前進力に変えています。上半身と下半身が一体化したような動きになり、上下動が少なく頭の高さがあまり変わらない滑らかな走りです。現代のランニングのような身体のバネを使った跳ねる動きがないため、長時間でもフォームが崩れにくくスタミナを温存できます。
- 手足の連動: 江戸走りでは同じ側の手と足を同時に出す「ナンバ走り」に近い動作も取り入れています。現代では右手と左足を出すのが自然とされていますが、江戸時代の歩き方・走り方は同側の手足を連動させていたという説があり、その動きを再現する形です。これにより身体のひねりを抑え、体軸がブレない安定した走りを可能にしています。
以上のように、江戸走りは「重心を前に、小刻みな足運びで静かに進む」走法であり、現代の走り方と一見正反対のフォームを取ります。そのため見た目には不思議な前傾姿勢の忍者走りに映りますが、実際にやってみると「普通の走りとはまったく違う軽さ」を感じるほど合理的で疲れにくいと評価されています。事実、大場さんの検証ではこの走法は従来より疲労が少なく長距離移動に適していることが示されており、多くの体験者が「意外と楽に走れる」と驚きを持って受け止めています。
江戸走りを実践する人物・団体(発信者とコミュニティ)
- 大場克則さん(江戸走り研究家): 現在「江戸走り」を実践・発信している中心人物は、大場克則さん(現在60歳)です。趣味のマラソン中に膝を痛めた経験から2014年に江戸時代の走法に興味を持ち、約10年かけて古文献を国会図書館で調査しながら、自身の体でその走法を再現する研究を続けてきました。
古文献の記述と矛盾しない動きを試行錯誤し、無理なく身体を動かせる理にかなったフォームを突き止めた彼は、その成果をまとめた公式サイト「江戸時代の走り方を求めて」を開設し、さらにYouTubeやInstagramなどSNSで動画発信を開始しました。SNS総再生数が数億回規模に達した現在ではフォロワーも急増し、Instagramのフォロワーは約7万人に上ります。
投稿動画のコメント欄ではユーザーたちがツッコミやネタ投稿で「大喜利」状態になるほど盛り上がっており、大場さん本人もメディア出演や各地でのワークショップ指導に引っ張りだこの人気ぶりです。
例えば2025年11月には東京都渋谷区の子ども向けイベントで講師を務め、参加者に「ひざ抜きの術」や「抜き足差し足」で走るコツを伝授して実際に忍者や飛脚のように走ってみせる体験会を開きました。このように研究者であると同時に“走るエンターテイナー”として、大場さんは江戸走りの普及活動を精力的に行っています。 - SNS上の愛好者コミュニティ: 大場さんの発信をきっかけに、SNS上では一般のユーザーやインフルエンサーたちも江戸走りを面白いネタ兼フィットネスとして次々に実践しています。TikTokでは江戸走りにBGMを付けた真似動画が流行し、「まるでタイムスリップしたみたい」「忍者になった気分!」といったコメントとともに投稿が拡散されました。X(旧Twitter)でも「#江戸走り界隈」というハッシュタグで挑戦動画や体験談が数多く共有され、ネットミームとして定着しています。
中には「元禄スプリント完了!」などと日常のランニング記録を江戸風に言い換えて投稿する人もおり、ファン同士で創意工夫しながら盛り上がる緩やかなコミュニティが形成されています。
また、その独特なフォームへの関心から陸上競技の指導者や伝統武術の愛好家が取り入れてみるケースもあり、フィットネス・演劇・武術など幅広い分野に波及しています。このように「江戸走り」は、一介の研究から生まれたユニークな走法がSNS時代の追い風を受けて老若男女が楽しむブームへと発展したものと言えるでしょう。
参考資料・公式リンク: 大場克則さんの公式サイト「江戸時代の走り方を求めて」では江戸期の資料に基づく詳細な考察が公開されており、また本人のInstagramやYouTubeチャンネルでも実演動画を多数見ることができます。
興味のある方はぜひチェックしてみてください。
