Netflixの大ヒットシリーズ「ストレンジャー・シングス」シーズン5(最終章)の終了後、SNSやファンコミュニティである奇妙な噂が急速に広まりました。それが「フェイクエンディング説」と呼ばれるものです。これは、配信済みの最終話(エピソード8)は「仮のエンディング」に過ぎず、本当の結末を描いたエピソード9(隠し最終回)が存在するのではないか、という大胆なファン理論です。
特に「コンフォーミティ・ゲート(Conformity Gate)」と名付けられたこの説では、シーズン5の結末はまだ終わっておらず、2026年1月7日に秘密のエピソード9が発表・配信されるのではないかと主張されました。
発端は、2025年12月末に配信された最終話「The Rightside Up(表側の世界)」へのファンの不満でした。10年にわたるシリーズの結末としては納得できないという声が多く、「結末の内容が本来の構想から変えられたのでは?」との憶測がネット上で噴出しました。実際、シーズン5後半(Vol.2)が配信された後、一部ファンは「物語の重要シーンやプロットが多数削除されたのではないか」と考え、Netflixに未公開映像の公開を求める署名活動まで開始しました。Change.orgでのオンライン請願には24時間で15万筆、数日で30万筆以上もの署名が集まり、請願文には「Vol.2から多くのシーンがカットされたはずだ。我々ファンにその映像を見せ、評価させてほしい」という熱烈な訴えが綴られています。
こうした動きと並行してSNS上でファン理論が過熱し、「もしかするとカットされた映像をまとめた隠しエピソード9があるのでは?」という噂が一気に広まっていきました。
SNSで拡散した“フェイクエンディング”説
このフェイクエンディング説(コンフォーミティ・ゲート)は、文字通りウイルスのようにSNS上で拡散しました。海外のTwitter(現X)ではハッシュタグ「#ConformityGate」が飛び交い、Redditの/r/StrangerThingsスレッドでも賛否両論の議論が巻き起こりました。TikTok上でも考察動画が次々と投稿され、YouTubeには説を支持する“証拠”集や、逆にデマだと検証する動画まで登場する盛り上がりを見せました。
ある分析では「コンフォーミティ・ゲートというファン運動が突飛かつ制御不能な勢いで広がった」と表現されています。
特にこの説が具体的な日付(2026年1月7日)と結び付いたことで、期待と憶測がさらに煽られました。Netflixが1月7日に「#WhatsNext」という新作発表イベントを予告していたこともあり、ファンは「この場でストレンジャー・シングスの隠しエピソードが発表されるに違いない!」と色めき立ちました。
作中で“7”という数字が意味深に扱われていたこと(例えばシーズン1第1話でウィルがダイスで7を出してヴェクナに敗北する場面や、シリーズ最終カットに映るダイスが7の目を示していることなど)も相まって、1月7日は「本当の最終回」が来る日だという期待が高まったのです。
さらにNetflix公式アカウントやキャストが明確に否定コメントを出さなかった(ように見えた)ことも、噂に拍車をかけました。最終話配信直後から数日間、Netflixや制作陣はこの件について沈黙を保っていたため、ファンの間では「なぜ誰も“エピソード9は無い”と否定しないのか?」という疑問も噴出しました※。実際にはホーキンス中学校の科学教師スコット・クラーク役ランディ・ヘイヴンズが12月28日にInstagramストーリーで「この番組に“秘密のスナイダーカット”は存在しない」と発信し、出所不明の噂を鵜呑みにしないよう呼びかけています(※「スナイダーカット」とは映画『ジャスティス・リーグ』で未公開映像を加えた特別版のこと)。しかしこのランディの否定にもかかわらず、多くのファンは「Netflixもダファー兄弟(クリエイター)も公式に否定していない」と感じていたようです。
むしろ公式アカウントのプロフィール欄が更新され、「ALL EPISODES OF STRANGER THINGS ARE NOW PLAYING(ストレンジャー・シングスは全エピソード配信中)」との文言が追記されたことがかえって意味深に受け取られ、「わざわざ全エピソード配信済みと強調するのは何か裏があるのでは?」と勘繰る声もありました。
隠されたエピソード9を示唆する伏線やヒント
では、なぜファンは「隠しエピソード9」の存在を信じたのでしょうか?その背景には、シーズン5最終話の随所に「現実がおかしい」と感じさせる矛盾点やイースターエッグが散りばめられていたことがあります。考察勢はこれらの細部を丹念に拾い上げ、「これは制作上のミスではなくヴェクナが作り出した偽の世界の証拠だ」と主張しました。主な“証拠”として挙げられたものは以下の通りです。
- 色の違う小道具や背景:最終話のホーキンス高校卒業式シーンで、生徒たちの卒業ガウンの色が学校カラー(緑や黄)ではなくオレンジ色になっている。またホイーラー家の地下室にあるドアノブの位置が以前と逆になっている、地元ラジオ局WSQK(通称「ザ・スクウォーク」)の機材ハンドルが場面によって黒から赤に変わっている等、通常では考えにくい色・配置の不一致が指摘されました。「小道具やセットの継続性ミスにしては不自然すぎる。“偶然の一致”なんて信じられない」とファンは熱弁しています。
- キャラクターの不在やポーズ:最終話では、それまで登場していたキャラクターの一部が突然姿を消しています(例:ロビンの恋人候補だったバンディ部のヴィッキーが結末に一切出てこない)。ファンは「重要人物が描かれないのは不自然だ」とし、これも真の結末が別にある伏線ではないかと疑いました。また卒業式での登場人物たちの立ち姿や仕草にも注目が集まり、何人かがヴェクナ(敵役)と似たポーズで座っているとの指摘もあります。これについて「幸福そうな卒業式の光景に見えて、実はヴェクナの精神世界に囚われている暗示では?」といった考察がなされたのです。
- 劇中劇的な演出や隠しメッセージ:最終話のD&D(ダンジョンズ&ドラゴンズ)のゲームシーンでは、パーティー(主人公グループ)が使用するルールブックやサイコロの配置が意味深だとされました。たとえばラストのテーブルトーク場面で資料やサイコロが並ぶ様子が「X A LIE(Xは嘘)」という文字を形作っているように見えるというのです(Dimension X=裏側の世界のさらなる次元?に関するヒントとの声も)。またロビン役マヤ・ホークの背後に映るカセットテープがモールス信号的に配置されており、「U DID NOT STOP ME(“お前たちは私を止めていない”)」というヴェクナのメッセージになっているとの主張もありました。
- 作中のセリフやテーマ:シーズン5では物語の中で「矛盾に気づくこと」が鍵になる場面がありました。ホーリー(マイクの妹)とマックスがヴェクナの記憶世界を進む際、遊具メリーゴーラウンドの色が変わっていることにホーリーが気づいたおかげで次のステップに進めたシーンが象徴的です。つまり「ヴェクナの見せる幻覚の中では所々に綻び(矛盾)がある」というルールが劇中で提示されていたわけです。
この設定に沿えば、先述のような最終話の諸々の矛盾点こそ「現実ではなくヴェクナの幻影である」ことの証明になる、とファンは考えました。またルーカスが第2話で放ったセリフ「偶然なんてもう信じない(“I don’t believe in coincidences… not anymore”)」がメタ的なメッセージだとする見解もあります。このセリフが「作中の些細な矛盾も偶然ではなく伏線だ」と視聴者に訴えかけている、と解釈されたのです。
さらにファンは「トゥルーマン・ショー(架空の世界に主人公が閉じ込められる映画)」へのオマージュがシーズン5に感じられる点にも注目しました。登場人物が理想的すぎる日常を送る結末は、まるで映画『トゥルーマン・ショー』のような虚構ではないか、と示唆されたのです。
実際、こうした矛盾点はファンの目に多く「仕込まれている」ように映りました。通常のドラマであれば撮影ミスや小道具の手違いと片付けられるところですが、ストレンジャー・シングスでは緻密な考証と伏線張りが売りであることから、ファンは「偶然のミスではなく意図的なサインだ」と信じたのです。
制作側も過去に本編映像の修正を行った前例(シーズン4でウィルの誕生日に関する設定ミスを後にデジタル修正した「バースデーゲート事件」など)があり、ファンは公式が“後出し”で内容変更する可能性すら疑っていました。これら数々のヒントの積み重ねにより、「最終話エピローグはヴェクナが見せた偽のハッピーエンドであり、本当の最終決戦と結末はまだ描かれていない」という壮大な仮説が形作られたのです。
極めつけに、「7」という数字の符号もこの理論を後押ししました。Netflixが1月7日にイベントを開くというタイミングだけでなく、シーズン1第1話でウィルが出したサイコロの目が7だったこと、シリーズ最後のカットで机に転がるダイスが7を示していたことなどから、ファンは「1月7日こそ真のフィナーレが訪れる日だ」と盛り上がったのです。Netflix公式も12月25日(クリスマス)に「Your future is on the way.(あなたの未来がやって来る)」と意味深なツイートを投稿し、そこに「Jan 7」をタグ付けしていたため、「やはり1月7日に何かが起こる!」と期待が最高潮に達しました。
ファンや考察勢の反応:熱狂と懐疑
SNS上ではこのコンフォーミティ・ゲート説をめぐり、ファンの間で大いに賑わいを見せました。熱狂的に信じる派と冷静に懐疑的な派に分かれ、それぞれが思い思いのコメントやミームを投稿しています。
信じる派のファンは、「もし本当に隠しエピソードが来たら史上最高のサプライズだ!」といった期待の声を上げたり、自ら考察を深掘りして独自の証拠リストを作成したりしました。
YouTubeには「Stranger Things Season 5 Episode 9 Conformity Gate – Proof and Theories」といった動画が多数アップロードされ、海外の考察系YouTuberたちが最終話のシーンをコマ送りで分析し、前述の手がかりをひとつひとつ検証する様子が見られました。またTikTokでも若いファンを中心に短い考察クリップがバズり、「#conformitygate」をつけた投稿が何百万回と再生される事態になりました。
一方で懐疑的なファンは、この現象自体をジョークとして楽しむ余裕も見せました。Twitter上には「Netflixがクラッシュしたのに、エピソード9なんて存在しなかったとかウケる」、「少なくともみんなで一緒にイカれた妄想に付き合えたから良い思い出だよね 😂」といった自嘲気味の投稿も見られました。実際、1月7日夜(米国時間)に熱心なファンがNetflixに一斉ログインしたことで一時的にサービスが不安定になるハプニングも報じられています。あるユーザは「この騒動こそ、いかに今回のフィナーレに皆が不満だったかを物語っている。だって“代わりの結末”を求めてNetflixをクラッシュさせたんだから」と辛辣に指摘しました。
また海外メディアの批評家や有識者も、このファン理論に言及しています。米Forbes誌の記者ポール・タッシは「コンフォーミティ・ゲートはフィナーレに満足できないファンの現実逃避(コーピング)に過ぎない」との見方を示し、英メディアのDeadlineは「狂気じみたデマ」という辛辣な表現でこの現象を報じました。ある批評家はSNS上で「ストレンジャー・シングスのファンが集団ヒステリー状態で陰謀論を作り上げている。
ダファー兄弟の脚本がそれほどまでに酷かったということだ」と手厳しくコメントしています。これには同調する声も多く、「フェイクエンディング説自体がファンの集団的な失望を証明している」という指摘も少なくありません。
とはいえ、「コンフォーミティ・ゲート」をきっかけにファン同士の結束が高まり、一種のお祭りのように楽しんだ側面もあります。あるファンは騒動終息後に「夢のようなひと時だった。#conformitygate」とツイートし、別のユーザも「考察している間は本当に楽しかった。この経験自体が報われたよ」と前向きな感想を述べています。Netflix公式が何も発表しないまま1月7日が過ぎると、多くのファンは「残念だけど、同じ想いで盛り上がれた仲間がいるのは素敵なことだ」と受け止め、ある意味でファンコミュニティの結束とクリエイティビティを示す出来事**だったと総括する声もありました。
過去シーズンや他作品との比較:ミスリードの使い方
ストレンジャー・シングスはこれまでも予想を裏切る展開やサプライズ演出で視聴者を驚かせてきたシリーズです。ただし、それらは基本的に物語内部での仕掛けであり、今回のように「放送済みエピソード自体が偽物で、後から真のエピソードが出てくる」というメタな手法は前例がありません。
過去のシーズンを振り返ると、シーズン1では政府機関がウィル・バイヤーズの偽の死体をでっち上げるという「作中のフェイク」が描かれました。視聴者には早い段階でウィル生存の可能性が示唆されていたものの、登場人物たちは一時ウィル死亡という誤った結末を信じ込まされます。この「偽の死」演出はシリーズ最初のミスリードとして印象的でした。またシーズン3のラストでは、主要人物の一人ホッパーが犠牲になったかに見えましたが、エンドクレジット後のシーンで彼が生存している可能性が示唆されました(いわゆる「The American(あのアメリカ人)は生きていた」演出)。ファンはこのヒントから次のシーズンでのホッパー復活を予想し、実際シーズン4でそれが的中するという展開になりました。
しかし、これらはあくまで物語上の伏線やどんでん返しであり、今回ファンが期待したような「制作者が視聴者にも嘘の結末を見せておき、後日それを覆す」ような手法とは異なります。実際、ストレンジャー・シングスのダファー兄弟は以前から「不要なシーンはほとんど撮影していない」と語っており、シリーズ全体でも削除されたシーンは1つしかないと明かしています。
シーズン4の際にも、一部ファンが「ボリューム2(最終章)のネガティブな反応を受けて、製作者が極秘で別バージョンを用意しているのでは?」と噂したことがありました。しかしダファー兄弟はその時「シーズン1でNetflixに無理に書かされて撮影した1シーンを削除しただけで、それ以外にお蔵入り映像は存在しない」と明確に否定しています。この発言からも、製作チームが放送後にエピソードを差し替えたり、隠しエピソードを追加投入したりする可能性は極めて低いことが伺えます。
さらに今回のフェイクエンディング説を検証する上で比較対象に挙がったのが、他作品での類似のファン騒動です。特に有名なのはBBCドラマ「SHERLOCK/シャーロック」の最終回後に起きた「ジョンロック陰謀論(The Johnlock Conspiracy)」でしょう。これは一部ファンが「公式が用意した真の最終回が別に存在し、放送された結末は偽装だ」と信じ込んだ事例で、結果的に真相はただの噂に過ぎませんでした。
同様に「ゲーム・オブ・スローンズ」最終章では不満を持った視聴者が別エンディング制作を請願する運動が起こり、「デクスター」ではファンの批判が高じて後年になって代替の結末を描く新シリーズが作られた、というケースもあります。ストレンジャー・シングスの今回の件も、こうした人気シリーズの終幕にありがちなファン心理現象の一つと言えるでしょう。すなわち、長年慣れ親しんだ物語が終わることに対する拒絶反応や、「自分の望む展開であってほしい」という願望が、現実と妄想の境界を曖昧にしてしまうのです。
興味深いのは、ストレンジャー・シングスという作品自体が「ファンが物語を語り継ぐ余地」を意識して作られている節があることです。80年代カルチャーへのオマージュや無数の細かい小ネタを散りばめたこのシリーズは、視聴者による考察や議論を前提としている部分があります。その結果、公式の結末が提示された後もファンが物語を補完・再解釈し続ける土壌があるのです。今回のコンフォーミティ・ゲート騒動はまさにその極端な例であり、「物語の終わりですらファンが自ら作り変えたいと思う」ほど、ストレンジャー・シングスという作品世界が人々を熱狂させた証とも言えるでしょう。
まとめ:熱狂の行方と真偽は──
1月7日、ファンが固唾を飲んで見守ったNetflixの発表イベント「#WhatsNext」では、結局ストレンジャー・シングスに関する新発表は一切ありませんでした。公式SNSプロフィールの「全エピソード配信中」というメッセージどおり、シーズン5第8話がシリーズ最終回であることが事実上確認された形です。Netflixは同日、「2026年公開作品ラインナップ」の動画を公開しましたが、その中にストレンジャー・シングスの名はなく、代わりにミリー・ボビー・ブラウンが出演する別作品の映像が流れただけでした。この時点でコンフォーミティ・ゲート説はほぼ否定されたと言ってよいでしょう。
さらにヴェクナ役のジェイミー・キャンベル・バウアーも、アメリカのTV番組で「シーズン5第8話こそストレンジャー・シングスが“ふさわしく迎えた”結末だと感じる」と発言し、「あれ以上でも以下でもない」と最終回に満足している旨を語っています。彼は「この物語は友情や愛、希望の物語であり、それにそぐわない存在(=ヴィラン)は最終的に退場しなければならないんだ」とコメントしており、裏を返せば**「物語はあれで完結している」**という公式見解を示した形です。
最終的に“隠しエピソード9”が配信されることはなく、コンフォーミティ・ゲートは噂に終わりました。しかし、この一連の騒動は決して無意味だったわけではありません。前述のようにファンの創意工夫や団結を生み、シリーズへの愛着の深さを改めて世に示す結果となりました。制作サイドにとっては苦笑いかもしれませんが、あるファンは「ダファー兄弟も本当はこのくらい型破りな演出をすべきだったんだ」と述べ、むしろ公式がこの熱量を逃したことを惜しむ声もあります。実際、1月7日が過ぎた後もごく一部の熱心なファンは「きっと次の新月までに発表が…」などと冗談めかして投稿し、最後まで名残を惜しんでいました。
ストレンジャー・シングスという物語は完結しましたが、その余韻やファンダムの盛り上がりは今なお続いています。今回のフェイクエンディング説騒動は、現代の視聴者が物語の結末ですら自分達の手で再創造しようとするほど積極的であることを示す象徴的な出来事でした。公式がどんな結末を用意しようとも、それを受け入れるか書き換えるかは視聴者次第——そんな時代の空気を映し出したと言えるかもしれません。真偽はともかく、ストレンジャー・シングスがファンに残したものは、画面の中だけでなく現実世界のコミュニティにも確かな熱狂と創造の火種を灯したようです。
