『カールじいさんの空飛ぶ家』の知られざる裏設定・秘密まとめ

Pixar映画『カールじいさんの空飛ぶ家』(原題:Up)は、冒頭の結婚生活を描いたわずか数分のシーンで観客の心を鷲掴みにし、その後もワクワクする冒険が続く名作です。しかし、この心温まる物語の舞台裏には、ファンが驚くような裏設定制作秘話、隠されたメッセージが数多く存在します。映画に散りばめられたイースターエッグ(お遊び要素)から、制作陣だけが知るキャラクターの背景、さらにファンの間で囁かれる都市伝説的な考察まで、幅広く掘り下げてご紹介します。これを読めば『カールじいさんの空飛ぶ家』がもっと好きになること間違いなしです。それでは、高々と空へ飛び立った“家”の秘密を、一緒に探ってみましょう!

目次

映画に隠されたイースターエッグたち

Pixar作品といえば、他の作品とのさりげないつながりや小ネタが仕込まれていることで有名です。『カールじいさんの空飛ぶ家』にも、思わずニヤリとしてしまう数々のイースターエッグが登場しています。ファンなら見逃せない代表的なものを以下にまとめます。

  • ロッツォ・ハグベアの先行出演: 『トイ・ストーリー3』で初登場するピンク色の熊のぬいぐるみ「ロッツォ」は、実はカールの家が空へ飛んでいく際に通り過ぎる女の子の部屋でひっそりカメオ出演しています。ベッドの下に横たわるロッツォを発見できるでしょうか?その隣にはおなじみの青・黄・赤のピクサーボールも転がっており、ファンにはたまらないサービスシーンになっています。
  • おなじみピザ・プラネットのトラック: 初代『トイ・ストーリー』から皆勤賞のピザ・プラネットのデリバリートラックも健在です。しかも本作では2回も登場します。1度目はカールじいさんの家が街を浮遊する場面で下を走る交通の流れの中。もう1度はエンディング近く、カールとラッセルが訪れるアイスクリーム店の外にさりげなく駐車されています。見逃していた人は次回ぜひ探してみてください。
  • 伝統の「A113」: カリフォルニア芸術大学の教室番号に由来するPixarの隠しコード「A113」は、本作ではカールが出頭する法廷の部屋番号として登場します。画面にはっきり映るわけではありませんが、法廷の外の看板に“A113”と書かれているので要チェックです。
  • グレープソーダのピン: ラッセル少年が最後に受け取る「エリーのバッジ」ことグレープソーダのボトルキャップは、実は『トイ・ストーリー』に同じ銘柄のソーダ広告が登場しており、Pixar世界の中でつながりを感じさせる小ネタです。なお、このグレープソーダの瓶蓋バッジそのものも『トイ・ストーリー4』にさりげなく再登場しているので、シリーズを通して探してみるのも一興です。
  • “Pixarの御守り”ジョン・ラッツェンバーガーの声: 毎回Pixar映画に声の出演をしている声優ジョン・ラッツェンバーガーも本作に登場。序盤でカールの家の前で工事をする作業員「トム現場監督」の声を担当しています。彼はピート・ドクター監督曰く「幸運のお守り」と称される存在ですから、声を聞き分けてみるのも楽しいでしょう。
  • 若きエリーを演じたのは監督の娘: オープニングで幼いエリーが喋る数少ないセリフ(「冒険ブック」をカールに見せるシーンなど)を演じたのは、なんと監督ピート・ドクターの実娘エリー・ドクターさんです。彼女の名前そのものがキャラクター名エリーの由来にもなっています。またエリーの冒険ブックの中にある子供の描いたようなかわいいイラストのいくつかは、このエリー・ドクターさん本人が実際に描いたものが使われています。まさに家族ぐるみの参加ですね。
  • その他の細かなつながり: ラッセルのカラフルな勲章の中にはピクサーボールの絵柄のバッジが紛れ込んでいますし、カールとエリーがアンディ(『トイ・ストーリー』の少年)宛てに出した絵葉書が『トイ・ストーリー3』でアンディの部屋に貼られているというクロスオーバーも存在します。
    さらに、Pixar短編『ニック・ナック』のキャラクター(スノードームの雪だるま)が『トイ・ストーリー2』や別のトイ・ストーリー短編に登場していたり、本作でカールが飛行機チケットを買う場面に同短編の南国女性キャラ「サニー・マイアミ」のポスターが映り込んでいたりと、小ネタは尽きません。探せば探すほど色々見つかるのもPixar映画の醍醐味ですね。

以上のように、『カールじいさんの空飛ぶ家』にはPixarファンをニヤリとさせる隠れ要素が満載です。次に鑑賞する際は、物語だけでなく背景のすみずみまで目を凝らしてみてください。きっと新たな発見があるはずです!

キャラクターデザインの舞台裏 – モデルやインスピレーション

カールじいさんは四角い顔に大きな四角眼鏡というユニークな見た目ですが、実はこのデザインにはあるコンセプトが隠されています。
カールの頭部は文字通り四角い形にデフォルメされており、これは「自宅という殻に閉じこもっている彼の頑固さ」を象徴しています。一方でラッセル少年の丸っこいシルエットは風船のように柔軟で自由な性格を表しているのです。こうした形状による対比で二人のキャラクター性を視覚的に伝えるのは、Pixarのデザイン巧者ぶりが発揮された部分と言えるでしょう。

では具体的に、カールじいさんのモデルとなった人物像は誰なのでしょうか?実は往年の名優スペンサー・トレイシーがヒントになっています。

彼の遺作『招かれざる客』(1967年)に出演した際の老年の姿がカールの外見モデルとされ、映画でカールを演じた名優エドワード・アズナー本人も初めてキャラ模型を見たとき「こんなの僕に似てないよ!」と冗談めかしていたそうです。さらに、ウォルター・マッソージェームズ・ホイットモアといった渋い老人役者たち、そして製作陣それぞれの祖父母のイメージも少しずつ取り入れ、「不機嫌だけどどこか憎めないおじいちゃん像」を練り上げていったといいます。確かにカールには、ぶっきらぼうで皮肉屋だけど根は優しい…そんな“古き良きおじいちゃん”の魅力がありますよね。

悪役マンツのモデルにも興味深い裏話があります。マンツはカール少年時代の憧れの冒険家ですが、その名前「チャールズ・マンツ」はディズニーの歴史上実在した“ヴィラン”へのオマージュだと言われています。1920年代、ウォルト・ディズニーが生み出したウサギのキャラクター「オズワルド」の権利を横取りし、ウォルトを窮地に追いやった実在のプロデューサー、チャールズ・ミンツという人物がいました。

マンツという名前はこの因縁の相手ミンツにちなんでおり、ディズニーから見た“裏切り者”の名をあえて宿敵キャラに与えたのです(もっとも公式に明言されてはいませんが)。さらにマンツ本人のキャラクター造形は、冒険家ハワード・ヒューズやリンドバーグ、そして南米探検で消息不明になった実在の探検家パーシー・フォーセットなどの伝記からインスピレーションを得たと監督自身が語っています。つまりマンツは20世紀前半の「光と闇」を備えた冒険家たちの集合体とも言えるでしょう。

なお、マンツの乗る飛行船「スピリット・オブ・アドベンチャー号」の名前は、大西洋無着陸飛行で有名なリンドバーグの愛機「スピリット・オブ・セントルイス号」にちなんだ可能性が高いとも指摘されています。

また、本作では声優のカメオ出演も見どころです。先ほど触れたジョン・ラッツェンバーガー以外にも、監督のピート・ドクター自身が終盤の少年探検団の式典でラッセルに勲章を授与する隊長(キャンプマスター・ストラウチ)の声を演じており、同時に鳥のケビンの鳴き声も担当しています。

共同監督・脚本のボブ・ピーターソンは、なんと犬のダグとアルファという対照的な2キャラの声を一人二役で担当しました(アルファは声帯の故障で変な声になっている黒い犬です)。そのアルファの甲高い声のアイデアは「レコードプレーヤーの回転数がおかしくなって声が高く聞こえる」ことから着想を得たそうで、ユーモアの陰にも制作陣の工夫が光ります。

他にもガンマ犬役にピクサーのアーティストであるジェローム・ランフト(故ジョー・ランフトの弟)、ニュース映像のナレーションに声優のデヴィッド・ケイなど、細部まで遊び心たっぷりです。エンドロールで是非チェックしてみてください。

制作秘話:幻の構想と物語の裏テーマ

『カールじいさんの空飛ぶ家』の企画当初の構想は、いまとなっては想像もつかないほど現在の物語とかけ離れたものでした。ピート・ドクター監督によれば、初期段階では「ヘリウムズ (Heliums)」という仮タイトルで、なんと異星の浮遊都市を舞台に「王国の後継を巡って争う二人の兄弟」が主人公という案だったそうです。

その物語では兄弟が地球に墜落し、長身の奇妙な鳥(後のケビンの原型)と出会って和解する…という筋書きでしたが、あまりに要素が多く複雑で「まとまりがない」と感じた監督は大胆に方向転換。“孤立した浮遊都市”という要素こそ面白いと気づき、それなら都市全体ではなく「孤独な老人が一人で空飛ぶ家」に絞ろう!と思い立ったのです。魔法の代わりに風船で家を飛ばすアイデアが生まれたのもこの時点でした。こうして主人公はおじいさんのカールに定まり、彼の相棒として対照的な子供(ラッセル)を登場させる現在の形が見えてきました。

しかし物語の詳細はまだ試行錯誤が続きます。たとえば一案では、カールの家が最終的にソ連のスパイ飛行船(雲にカモフラージュされている)に不時着する構想もあったとか。さらには、年老いたマンツとカールの年齢差が大きい矛盾に説明をつけるため、「謎の鳥(ケビン)が産む若返りの魔法の卵」というファンタジックな要素を入れようとした時期もあったそうです。ですが「さすがに風呂敷を広げすぎ」と判断され、この若返りの卵設定はカットされました(マンツが高齢でも元気なのはご愛嬌ということで、観客は細かいことは気にしないだろうと割り切ったそうです)。振り返ってみれば、最終的に選択・洗練された要素だけが残った現在の物語だからこそ、シンプルで感動的な作品に仕上がったのかもしれません。

物語全体のトーンやテーマについても、製作過程で重要な指針が与えられています。ピート・ドクター監督の師匠筋にあたる故ジョー・グラント(『ダンボ』など往年のディズニー作品に携わった伝説的クリエイター)は、本作の脚本を読んで「どんなに冒険部分がドタバタでも、感情面の“土台”を忘れちゃいけない」とアドバイスしてくれたそうです。この言葉を受けて監督が据えた“心の土台”こそ、カールのエリーに対する深い想い(喪失の悲しみ)でした。グラントは完成を待たず亡くなりましたが、彼の助言のおかげで物語の核がぶれずに済んだのです。実際、序盤の「結婚生活の思い出」シークエンスはストーリーボードの段階からスタッフが号泣する出来だったと言います。

作曲を担当したマイケル・ジアッキーノも、この“結婚生活”シーンの音楽を真っ先に作曲し、それを基調に全編のテーマを構築したほど。アップテンポな冒険の中核に揺るがない感動が通っているのは、こうした製作陣の狙いと努力があったからなのですね。

カールの「本当の目的」とタイトルの意味

興味深いことに、当初のプロットではカールの動機は今と少し異なっていました。「空の上でエリーと再会したい」――つまり家ごと天に昇ってしまおうという、言葉は悪いですが“ある種の自殺的ミッション”に近いものだったそうです。老年の彼にとってエリーを失った悲しみはそれほど深いものだったのでしょう。しかし当然ながら「空に昇ったあと物語が続かない」ため、この案は却下され、代わりに「パラダイス・フォール(楽園の滝)へ行く」という明確な冒険目標が設定されました。

結果、単なる死出の旅ではなく人生最後の大冒険としてストーリーに張りが生まれました。邦題ではシンプルに「空飛ぶ家」とされていますが、原題の『Up(アップ)』には「天国へ昇っていく」というニュアンスも密かに込められていたのかもしれません。いずれにせよ、カールじいさんが再び前を向いて人生を歩みだす物語へと昇華した点で、このプロット修正は大成功だったと言えるでしょう。

Dug(ダグ)と“話す犬”の秘密

空飛ぶ家に巻き込まれる形で旅に同行することになるゴールデンレトリバーのダグも、実は制作初期の別企画からの“出張キャラクター”でした。ドクター監督とピーターソン氏が過去に温めていた未発表プロジェクト用にデザインされていた犬キャラを、「せっかくだから」と本作に再利用したのだそうです。

そのおかげで物語にユーモアと癒やしが加わり、一石二鳥でした。製作陣は犬らしい挙動を忠実に描くため動物行動学の専門家イアン・ダンバー博士をコンサルに招き、犬のボディランゲージや群れでの振る舞いを研究しています。ダグが獲物を見つけたときに思わず取る“ポイント姿勢”(体と尻尾を一直線に伸ばすアレです)は、ミッキーマウスの愛犬プルートがよくやるポーズへのオマージュだとか。さらにダグの毛色(黄土色の体に赤い首輪)もプルートに似せてあり、ディズニーファンにはニヤリとするポイントです。そして喋る犬という奇想天外な存在を違和感なく受け入れさせる工夫として、翻訳コンニャクならぬ“翻訳カラー(首輪)”のガジェットが発明されました。

これも、序盤は人間同士だけで進む物語の中盤以降でカールに喋り相手を作ってあげるためのナイスアイデアでした。首輪のボタン一つで言語切替までできる芸の細かさには笑ってしまいますね。

ラッセル誕生秘話と声優オーディション

カールの相棒となる少年ラッセルは、「高齢者と子供の凸凹コンビにすればきっと面白い」という発想から生まれました。脚本協力として参加した俳優・脚本家のトム・マッカーシー(映画『ステーションエージェント』の監督)がラッセルというキャラクター像を提案したとされています。

ラッセル役の声優選びには特に力が注がれ、全米で400人以上の少年をオーディションした末に当時8歳の日系アメリカ人の少年ジョーダン・ナガイ君が抜擢されました。実は彼、自身は兄の付き添いで会場に来ていただけだったのですが、緊張もせずずっとおしゃべりをしていたためスタッフの目に留まったそうです。

ラッセルのキャラクターそのままの天真爛漫さですね! 収録ではジョーダン君の自然な演技を引き出すため、監督自ら彼を逆さに持ち上げたりくすぐったりして大はしゃぎで録音したエピソードも伝わっています。こうした裏話を知ると、劇中のラッセルの無邪気さが一層リアルに感じられるのではないでしょうか。

補足ですが、ラッセルのルックスはPixarで働く韓国系アメリカ人のアーティスト、ピーター・ソーン氏がモデルになっています。会議中にスタッフ同士で同僚の似顔絵を描きあう遊びから生まれたキャラだそうで、丸っこい体型といい愛嬌たっぷりですね。Pixar初の東アジア系主人公ということもあり、現実のステレオタイプにならないよう注意深く描かれています。

都市伝説的なファン考察あれこれ

公式に語られた裏設定のみならず、ファンの間では本作について様々な考察や都市伝説が囁かれています。その中には「なるほど!」とうなずけるものから、「いやいや…」と首を傾げたくなる突飛なものまでありますが、ここでは特に有名なものをいくつか紹介しましょう。信じるか信じないかはあなた次第…?

1. 「カールじいさんは物語序盤で死んでいた」説

まず衝撃度ナンバーワンなのがこの説です。一見ファンの悪ふざけにも思えますが、海外の掲示板Redditなどで広まり有名になった仮説でもあります。その内容は、「カールじいさんは冒頭で亡くなっており、以降の冒険はあの世への旅だった」というもの。

つまりパラダイス・フォール=天国であり、ラッセルは天国へ導くガーディアンエンジェル(守護天使)だった、という解釈です。そう聞くと俄かには信じ難いですが、劇中でラッセルが「高齢者のお手伝い」バッジ=天使の羽を得るために奮闘する点や、パラダイス=楽園という名称、さらには非現実的な風船の物量などが「現実ではなく寓意」と考えれば筋が通る…と主張する人もいます他にも細かいバリエーションがあり、マンツは堕天使でカールを地獄に引きずり込もうとしているとか、ラッセルはカールとエリーが生涯持てなかった子供の象徴だとか、ケビン(鳥)はエリーの化身なのでカールは彼女(=鳥)を放すのをためらった…等々。

中には凝りすぎて壮大な天国と地獄の戦いの物語になっているものもあります。さすがにここまで来ると公式設定とかけ離れていますが、発想としてはとても面白いですね。もっともこの説だと「ラストでカールが現世に戻ってラッセルの成長を見守っているのはどう説明するの?」といったツッコミ所も多く、あくまでファンの想像遊びの域を出ません。とはいえ「実は死後の物語だった」と考えると一段と切なく感じてしまうのも事実…。ロマンあふれる解釈として、頭の片隅に置いておくと鑑賞の幅が広がるかもしれません。

2. 本当の悪役は「空飛ぶ家」だった?

劇中の表向きのヴィラン(悪役)は冒険家チャールズ・マンツとその手下の犬たちですが、一部のファンは「真の敵はカールが執着するあの家そのものではないか?」と指摘します。確かに物語を通してみると、カールじいさんは家(=過去と思い出)へのこだわりのあまり何度もピンチに陥っています。

家を守ろうとするあまりラッセルを危険にさらしたり、先に進む足かせになったり…。しかしクライマックスでカールはついに家と決別し、過去を手放す決心をします。風船のしぼんだ家が静かに雲間に落ちていく描写は象徴的で、結果的にカールはラッセルという未来を救うことができました。

そう考えると、カール自身の過去への執着=家こそが乗り越えるべき敵だったとも解釈できます。このメッセージ性は公式にも通じるものがあり、観客によってはマンツ以上に「重いテーマの敵」として心に残るかもしれません。

3. 「ラッセルは幼い頃のカール?」説

これは微笑ましい説です。ラッセル少年の無邪気さや外見が、幼少期のカールにそっくりだという指摘があります。確かにカールも子供の頃はあんなに目を輝かせて冒険に夢中でした。

性格は一見正反対ですが、「ラッセルは若き日のカールの投影であり、彼と交流することでカールは自分の少年心を取り戻したのだ」という見方もできますね。実はこれに近い発言を制作スタッフも示唆しており、かなり信憑性が高い裏設定だとも言われています。

そう考えると、ラッセルの存在がカールにとって単なる偶然の出会い以上の意味を持っていたように感じられて、より感動が深まるのではないでしょうか。

4. Pixar作品は全部つながっている?~ハガキと車が示す世界のリンク

Pixarファンの間では有名な「Pixar作品全部同じ宇宙(ユニバース)説」。

『カールじいさんの空飛ぶ家』も例外ではなく、他作品とのつながりが匂わされています。先述の通り『トイ・ストーリー3』のアンディの部屋にはカールとエリーからのハガキが貼られており、このことから「アンディの祖父母の誰かがカールまたはエリーの兄弟姉妹なのでは?」つまりアンディとカールは親戚なのでは、といった憶測も飛び交いました。真相は不明ですが、少なくともアンディ一家とカール夫妻が文通する間柄ではあったようです。

さらに『インサイド・ヘッド』の舞台であるサンフランシスコの街角にもピザ・プラネットのトラックが走っていたり、ラッセルの風貌が『カールじいさん』公開翌年に生まれたブー(『モンスターズ・インク』)に似ているなんて指摘もありました。牽強付会なものもありますが、Pixar作品間の小ネタ探しはもはやファンの娯楽ですね。

そして「ダグは実はフランスから来た?」なるユニークな説も。というのも、ダグは劇中でたまたまカールたちに出会うわけですが、Pixar映画『レミーのおいしいレストラン』の序盤でパリの家々をレミー(ネズミ)が駆け抜けるシーンにダグそっくりの犬の影が映り込んでいるのです。

あの影の主こそダグではないか、と言われており、もしそうなら「南米にいるはずのダグがなぜパリに?マンツに連れて来られた?逃げ出した?」と妄想が膨らみます。実際には制作時期の関係で単なる遊び心のカメオ出演なのでしょうが、こんな風に想像を巡らせるのもファンならではの楽しみと言えます。

現実世界に存在した「空飛ぶ家」と楽園のモデル

物語のクライマックスで登場する「パラダイス・フォール(楽園の滝)」は、その圧倒的な高さと美しさが印象的です。実はこの滝、南米ベネズエラに実在する世界一高い滝エンジェル・フォール(Angel Falls)がモデルになっています。

エンジェル・フォールは落差979メートルもあり(パラダイス・フォールという架空の名もそのまま「天使=エンジェル」の発見者ジェームズ・エンジェルに由来しています)、劇中の「楽園の滝」はそれをさらに誇張したような絶景です。2004年には監督たちPixarスタッフが実際にベネズエラのテーブルマウンテン地帯(テプイ)へ探検旅行を行い、3日かけてヘリやジープで秘境の山ロライマ山に登り、野営しながらスケッチを重ねたそうです。

目の当たりにした奇妙な動植物や絶景はとても映画で全部は表現できないほどだったとか。まさに現地の大自然が本作のファンタジーにリアリティとインスピレーションを与えてくれたのです。

一方、カールとエリーが何十年も住んだあの家についても、興味深いトリビアがあります。アメリカ・ユタ州にはディズニーが公式に許可した「カールじいさんの家」の実物レプリカが建設されているのです。地元の建設会社ベンガーター・ホームズ社が2011年に映画そのままの外観・内装で家を再現し、大きな話題となりました(ポストに描かれたカールとエリーの手形まで忠実に再現する凝りよう!)。販売価格は約40万ドル(当時のレートで3200万円ほど)と意外に手頃だったこともあり、ファンの間で「欲しい!」と話題になりました。また、モデルになった家については他にも噂があり、有力なのはカリフォルニア州バークレーにある古い白い一軒家だと言われています。真偽は定かではありませんが、確かにどこかノスタルジックな佇まいはエリーとの愛の歴史を刻んだ家に相応しい気もしますね。

さて、空飛ぶ家といえば誰もが疑問に思うのが「本当にあの数の風船で家は飛ぶの?」という点でしょう。映画ではカールじいさんが約2万個のカラフルな風船を膨らませて家を浮かせていますが、実際の物理計算ではとても足りません。

NASAの研究によると、平均的な家(重さ約80トン)を浮かせるには約300万個ものヘリウム風船が必要になるとか。現実には風の影響や気圧の問題もあり、あんな風に悠々と空を漂うのは難しいでしょう。

しかしPixarは「魔法とロマン」を優先し、映像的な美しさと物語のファンタジー性のために風船の数を意図的に少なく見せています。これについて監督は「観客が夢を信じられるようにするための創造的解釈だ」と語っており、まさにその通り、私たちはスクリーンの冒険に心から浸ることができました。時には現実的な正しさより、子供心を刺激するロマンが大事だと教えてくれるエピソードですね。

まとめ

『カールじいさんの空飛ぶ家』の裏側には、このように豊富なエピソードや秘密が隠されていました。Pixarのスタッフが情熱を注いだキャラクター設定や制作上の工夫を知ると、改めて本作の奥深さに感心させられます。例えば、カールじいさんが家とともに空へ旅立つ物語は単なるファンタジーではなく、「人はいつまでも新しい冒険ができる」「大切な思い出を胸に前に進む勇気」といった普遍的なメッセージが込められていることがわかります。劇中でエリーの冒険ブックに書かれた「新しい冒険を始めよう」という言葉の意味も、一層心に染みてきますね。

また、イースターエッグやファン考察に思いを巡らせることで、物語の世界がさらに広がっていくのもPixar作品ならではの楽しみです。裏設定を知ったうえでもう一度見れば、きっと今まで見えなかった発見があるでしょう。実直で頑固だけど愛すべきカールじいさん、無邪気なラッセル、そして忠実な犬のダグ…。彼らの織りなす冒険譚は、私たち観客に子供の頃の冒険心人生の希望を思い出させてくれます。

最後に、本作はアニメーション作品として史上初めてカンヌ国際映画祭の開幕を飾り、アカデミー賞では作品賞含む5部門にノミネートされ長編アニメ賞を受賞するなど、その出来栄えが世界的に高く評価されました。しかし何よりの勲章は、公開から歳月が経った今も色あせず人々の心に残り続けていることではないでしょうか。裏設定を知って作品世界を深く味わった後は、ぜひもう一度『カールじいさんの空飛ぶ家』を観てみてください。きっと、前とは違う高揚感と感動が待っているはずです。冒険はそこにあります──“Adventure is out there!”。カールじいさんとともに、その冒険心をこれからも忘れずにいたいですね。

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この記事を書いた人

理系国立大学生のYuuKishiです!将来のためブログを通して、マーケティングやライティング技術を学んでいます。

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