スポーツ×哲学×人間ドラマ。
そんな異色の組み合わせが絶妙に絡み合った漫画作品――それが、魚豊(うおと)による『ひゃくえむ。』です。
2025年9月19日、この作品がついに映画としてスクリーンに登場します。しかも、ただのアニメ映画じゃありません。ロトスコープという超リアルな技法を使い、100メートル走の“あの一瞬”を徹底的に描き出す意欲作なんです。
この記事では、『ひゃくえむ。』ってどんな漫画?というところから、キャラクター紹介、映画化の詳細まで、じっくり深掘りしていきます!
そもそも『ひゃくえむ。』ってどんな作品?
『ひゃくえむ。』は、小学6年生の男子ふたりを主人公にした、100メートル走をめぐる物語です。
「100メートルだけ誰よりも速ければ、どんな問題も解決する」
そんな極端な持論を持つ少年・トガシと、ネガティブで“走ること”にしか希望を見出せなかった少年・小宮。
走る才能に恵まれた者と、そうでない者。
スピードに救われた者と、スピードで現実に立ち向かう者。
この物語は単なるスポ根漫画ではなく、「速さとはなにか?」「努力と才能の意味とは?」といった、ちょっと哲学的なテーマまで踏み込んでいきます。
作者・魚豊(うおと)とは何者?
『ひゃくえむ。』を描いたのは、漫画家・魚豊(うおと)さん。
「聞いたことある名前だな」と思った人、鋭いです。
彼の代表作といえば、『チ。―地球の運動について―』。
この作品は、地動説を信じた人々の信念を描いた名作で、2020年から2022年にかけて「週刊ビッグコミックスピリッツ」で連載。累計250万部(電子含む)を超えるヒットとなり、魚豊の名前を一気に広めました。
魚豊作品の魅力は、「視点のユニークさ」×「深い心理描写」。
その手腕が、今作『ひゃくえむ。』でもしっかり発揮されています。
登場キャラクター紹介
🟦 トガシ
小学校6年生。誰よりも足が速く、100mを12秒34で走る才能の持ち主。
練習など一切せずとも勝ち続ける「天才型」で、「100メートルだけ速ければ人生イージーモード」という極論を信じている。
そんな彼に変化が訪れるのが、小宮との出会い。
走ることを“勝つための手段”としていたトガシにとって、小宮の姿は自分の価値観を大きく揺るがすことになります。
🟨 小宮
同じクラスに転校してきた、ちょっと陰気な少年。
転校初日からいじめを受けるなど、どこか“弱い立場”の存在として描かれますが、ある日ひとりで無我夢中に走っていた姿をトガシに見られ、そこからふたりは友人に。
決して速くはないが、誰よりも「走ること」が好き。
トガシの助言を受けて努力し、最終的には徒競走で金メダルを獲得するまでに成長します。
この二人の関係が、作品の核なんです。
映画化情報まとめ!いつ公開?声優は誰?
そんな『ひゃくえむ。』が、2025年に映画化決定!
まずはこちらの基本情報をチェック👇
項目 | 詳細 |
---|---|
🎬 公開日 | 2025年9月19日(金) |
🎙️ 声優(トガシ) | 松坂桃李 |
🎙️ 声優(小宮) | 染谷将太 |
🎞️ 監督 | 岩井沢健二 |
🏢 制作会社 | ロックンロール・マウンテン |
🌍 映画祭出展 | アヌシー国際アニメーション映画祭「Work in Progress」部門 |
しかもこの映画、ただのアニメではなく、「ロトスコープ」という技法を採用。
これは実写映像をトレースするようにアニメを描く方法で、キャラクターの動きや筋肉の収縮まで、超リアルに表現できるんです。100mという一瞬の世界を描くには、まさにうってつけの技術といえます。
そもそもロトスコープって何?
ロトスコープ(Rotoscope)とは、一言で言えば――
実写映像を下敷きにして、その上からアニメーションを描く技法。
もともとは1910年代にアメリカのアニメーター、マックス・フライシャーによって開発された技術です。
普通のアニメは、キャラクターの動きを絵で想像しながら描きますよね。
でもロトスコープでは、まず“俳優が実際に動いた映像”を撮影して、それをベースにして動きをトレースしていくのです。
この技法の最大の魅力は、「リアルな人間の動き」がそのままアニメに反映されること。
筋肉の揺れ、関節のしなり、細かな重心移動まで忠実に描かれるため、「嘘のないアニメーション」になるのです。
なぜ『ひゃくえむ。』にロトスコープが選ばれたのか?
ではなぜ、あえてこの手間のかかるロトスコープを使ったのか?
その理由は、100メートル走という題材にあります。
100メートル走は、わずか数秒の“爆発”。
選手たちは、スタートからゴールまで、無駄な動きひとつなく身体をフル回転させています。
💬 監督・岩井沢健二の言葉
「あの一瞬の世界を、どこまでリアルに描けるか。観客に“自分が今まさに走っている”と錯覚させたかった」
このリアリティと臨場感を追求するためには、ロトスコープが最適だったわけです。
制作チームはたった12人!?
実はこの映画、通常のアニメ制作と比べて、とんでもなく小規模なチームで進行しています。
🔧 一般的なアニメ映画 → 約200人以上のスタッフ
🔧 『ひゃくえむ。』 → 約12人
そのぶん、ひとりひとりの作業負担は大きく、ロトスコープの“1フレームずつ手作業で描く”というスタイルは、まさに職人技の連続。
でも、その分クオリティには一切の妥協なし。
監督も制作陣も、「あくまで“アニメとしての完成度”を最優先にする」と語っています。
ロトスコープの“強み”と“課題”
ここで一度、ロトスコープのメリット・デメリットを整理してみましょう。
✅ ロトスコープの強み
- 人間の動きが超リアル
- 実写とアニメの境界を超える新しさ
- スポーツや日常動作との相性が抜群
❌ ロトスコープの課題
- アニメ特有の誇張表現がしづらい
- 感情を大げさに見せにくい
- 制作に手間と時間がかかる
たとえばアニメではよくある「目を見開いて驚く」といったオーバーな演技。
ロトスコープではそれを“リアルな人間”として描かないといけないので、キャラの感情を伝えるのが難しくなるんです。
監督が語る“リアル”と“アニメ”のバランス
このあたりの葛藤について、岩井沢健二監督はこう語っています。
💬 岩井沢監督のコメント
「リアルを追いすぎると、アニメーションならではの面白さが失われる。
一方で、アニメっぽさを優先するとリアルな走りが成立しない。
そのバランスを探るのが最大の挑戦だった」
アニメの魅力は「誇張」や「表現の自由」にあります。
それを失わずにリアルを追い求める――これは言葉で言うよりずっと難しいことなんです。
ロトスコープがもたらす新しいアニメの可能性
『ひゃくえむ。』のロトスコープ挑戦は、ただの技術的チャレンジではありません。
それは「アニメとは何か?」を問う試みでもあります。
絵の力、動きの説得力、空気の緊張感――
ロトスコープは、従来のアニメにはなかった「リアルな感覚」を持ち込むことで、アニメという表現の枠を押し広げようとしているのです。
声優に松坂桃李 × 染谷将太!異色のキャスティングが示す本気度
まず何より驚きなのが、キャスティングの顔ぶれ。
- 主人公・トガシ役:松坂桃李
- ライバル・小宮役:染谷将太
ふたりとも、言わずと知れた実力派俳優です。
しかもアニメの吹き替えをメインでやっているわけではなく、「演技力」そのものが評価されている人物。
この映画にとって、声の力はただのセリフ読みではありません。
ロトスコープの映像がリアルなら、声の演技もそれに負けてはいけない。
そう考えたうえでのキャスティングなのです。
ちなみに松坂桃李さんは、スポーツや熱血ものの役にも定評があり、静かさと爆発力を併せ持った演技が魅力。
一方、染谷将太さんは独特の存在感と繊細な表現で、小宮の“静かな闘志”を見事に演じ切ることでしょう。
制作会社は“少数精鋭”のロックンロール・マウンテン
次に注目したいのが、制作を手がけるスタジオ――ロックンロール・マウンテン。
名前からしてインディーズ魂全開なこのスタジオ、実は映画やCMの実写制作も行ってきた映像制作会社です。
いわゆる“アニメスタジオ”とは少し違った出自を持っているんですね。
そしてこのスタジオ、なんとたった約12人のスタッフで映画を作っているのです。
一般的なアニメ映画だと、スタッフ数は200人を超えるのが当たり前。
それをたった12人で回しているというのは、まさに“情熱と根性の結晶”。
効率ではなく、クオリティと想いを優先する制作体制が、ひしひしと伝わってきます。
監督は岩井沢健二|「走り」を誰よりも知る男の挑戦
この異例のプロジェクトを率いるのは、岩井沢健二監督。
映像ディレクターとして長年活躍してきた彼が、なぜ初の長編アニメに挑むのか?
その理由は、岩井沢監督が“走り”に並々ならぬこだわりを持っているから。
彼はインタビューでこう語っています。
💬 岩井沢監督のコメント
「100メートル走の魅力は、体を極限まで削って、爆発するその数秒。
そこに人間のすべてが詰まっていると思っている」
だからこそ、アニメで描くなら嘘のない走りを描きたかった。
そして選んだのが、ロトスコープという選択肢だったんです。
アヌシー国際アニメーション映画祭に“Work in Progress”で選出!
そしてもう一つ注目したいのが、海外での評価の高さです。
『ひゃくえむ。』は、アヌシー国際アニメーション映画祭2025の
「Work in Progress」部門に選出されています。
アヌシーは、アニメ業界における“カンヌ映画祭”とも呼ばれる、超一流の国際映画祭。
そこにまだ完成前の段階で招待されるというのは、非常に名誉なことなんです。
この部門は、制作途中の作品を世界のプロデューサーや配給会社に紹介する場。
つまり『ひゃくえむ。』は世界が期待する作品として、すでに注目されているのです。